近年デジタル技術の発展により、さまざまな書類や証明書が電子化されて効率的な情報交換が可能になりましたが、卒業証明書や成績証明書など学修歴証明書もその例外ではありません。

OECD(経済協力開発機構)はヨーロッパ諸国を中心に日米を含め38ヶ国の先進国が加盟する国際機関ですが、加盟国の中で学修歴証明書の電子化がほとんど進んでいないのは日本だけで、大きく遅れている現状があります。

海外の電子化推進と日本の状況

学修歴証明書の電子化推進については、国により成り立ちが異なっています。米国では、大学ごとに推進していったのちに、とりまとめの運営機関として大学事務局関係者で組織された非営利団体ナショナル・ステューデント・クリアリングハウス(NSC)が設立されました。

英国は、政府助成のもと継続・高等教育機関において、情報技術を活用した学習や研究、教育を促進する非営利団体 Joint Information Systems Committee(JISC)を設立しています。

中国は、政府機関が推進し学歴や学位は国によって管理され、教育部学生サービス・発展センター(CSSD)が業務を担っています。

独立行政法人大学改革支援・学位授与機構の『高等教育機関における電子証明書に関する調査報告書(2-3-1. 証明書の電子化の必要性)』 によると、日本の高等教育機関に行った「学位・成績等証明書を電子化する必要性」においての調査(図1)では、必要である、どちらかというと必要であるという回答が50.8%となりました。

日本の高等教育機関に行った「学位・成績等証明書を電子化する必要性」においての調査
図1

肯定的な回答が半数ある中で、検討が進まない背景として最も多かったのは「システムの導入費用」が挙げられており、電子化の必要性は感じながらも推進にはコスト面から消極的であるという結果になっています。

最も普及しているのはPDFへの電子署名

学修歴証明書を電子化するためには、どうやって真正性を担保させるかも重要となります。「諸外国における学修歴証明のデジタル化に向けた導入事例・導入方法 に関する調査研究」によると、各国の文書の電子化と信頼性担保の手段には、ブロックチェーン技術を利用した方法もありますが、最も普及率が高いのはPDFへの電子署名であり、80%以上のデジタル学修歴証明書がPDFへのデジタル署名方式で実装されているものと推測されます。

その理由としては、出力を紙からPDFにするのはそれほど開発の負担がなく、教務情報システムと連携がしやすい点にあります。PDFはハードウェアやタブレット、スマートフォンでも確認・共有ができ世界中で広く普及しています。ただし利便性が高い反面、編集なども容易にできるようになっているため、真正性を証明するには電子署名が不可欠となります。

電子署名はデジタル世界におけるサインや印鑑に相当するもので、認証局(CA)と呼ばれる第三者機関で本人認証が行われ、厳しい審査を経て発行される電子証明書が用いられます。電子署名には主に3つの役割があり、電子証明書を用いることでPDFの「発行元の証明」、タイムスタンプを付与し「作成日時の証明」、署名後に変更があった場合は、「変更が検知できる」役割を持ちます。

国際教育において重要となる学修歴証明書の電子化

国際教育においては、電子化された学修歴証明書の方が改ざん検知が容易になるため経歴詐称のリスクが軽減します。また海外の教育機関ではすでに電子化が進んでいるため、日本も電子化に対応することで、日本からの留学生の派遣や受け入れの活性化につながることが期待できます。

日本は現状、転職や生涯学習などで学修歴証明書が必要になった場合は卒業校の事務所窓口に出向き、窓口で交付願書に必要事項を記入のうえ、身分証明書を提示して発行してもらうことなります。遠方で学校に出向くことができない場合は、郵送で数日以上を要しますが、学修歴証明書を電子化すればオンラインで時間や場所にとらわれず申請・取得できるため、利便性も高くなります。

また学修歴証明書の電子化は、証明書を発行する高等教育機関側のメリットも大きく、事務職員は紙文書で行っている学修歴証明書の発行や郵送に関わる業務の効率化が見込めます。人的な手作業をなくしオンライン上で全て完結できれば、2月から4月の学修歴証明書の発行が集中する時期でも遅滞させることなく業務にあたることができるのです。

電子署名機能を実装させるには

実際に学修歴証明書に電子署名機能の実装する場合には、以下が必要な要素として挙げられます。

文書署名用証明書 文書の発行元を証明する
鍵格納デバイス(HSM) 署名鍵の安全な管理をする
タイムスタンプ 文書の作成日時を証明する
OCSP/CRL 証明書の失効情報。署名を長期間有効とする

これらの実装には、その後の管理面でも注意が必要となります。例えば、文書署名用証明書の有効期限管理や入替作業、署名鍵の危殆化やリスクを検討しなければならず、また大量に署名する場合は安定性も考慮しておく必要があります。

電子署名は真正性の確保のために重要な技術ですが、専門的でニッチな分野であるため知識やスキル不足が課題となることが多く、結果として実装がなかなか進まないことも往々にしてあります。

GMOグローバルサインでは、電子署名に必要な機能である暗号化コンポーネント一式(電子署名用証明書、タイムスタンプサーバ、秘密鍵格納デバイス、OCSP/CRL)をREST APIで連携するだけで利用できるサービスを提供しています。一から実装する場合は、PKI(公開鍵暗号基盤)や暗号の専門知識を必要としますが、サンプルコードや解説書など必要な情報を揃えており、時間やコストを最低限に抑えて開発を進めることができます。

日本の教育機関でも、低コストの電子署名ソリューションが活用されていくことで、海外と同様に証明書の取得手続きの利便性向上、偽造証明書の排除が期待でき、ひいては国際教育活性化の一助にもなるのではないでしょうか。

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