インターネット上の通信を安全にする技術と聞くと、多くの人がSSL/TLSやウェブサイトのURLの横にある鍵マークを思い浮かべるかと思います。これは、私たちが普段使っているウェブサイトが本物であることを証明し、通信を暗号化してくれる非常に重要な技術で、いまやウェブサイト上では当たり前の技術となりました。しかし、セキュリティの世界には、さらに一歩進んだmTLS(相互TLS)という技術が存在します。
そこで、この記事では、mTLS(相互TLS)がなにか、またSSL/TLSとの違いはなにか、イメージ図を交えながらわかりやすく解説します。
mTLS(相互TLS)とは何か?
mTLS(相互TLS)とは、クライアントとサーバがお互いに身元を確認し合うことで、より安全な通信を実現する仕組みです。クライアント証明書による認証もこれに含まれます。
具体的には、クライアントとサーバの双方は、それぞれ受け取った証明書の「信頼できるCAによる署名」「有効期限」「失効状態」「用途(EKU: ClientAuth/ServerAuth)」などを検証します。そのため、mTLSによって下記を同時に満たすことができます。
- 通信の機密性と完全性の保護(暗号化)
- サーバの真正性検証(サーバー証明書)
- クライアントの真正性検証(クライアント証明書)
SSL/TLSとの違いは?
通常のSSL/TLSとmTLSの違いをもう少し詳しく見てみましょう。最も大きな違いは「認証が一方向か、双方向か」という点です。
| 項目 | SSL/TLS | mTLS |
|---|---|---|
| 認証の方向 | クライアント→サーバ (一方向) |
クライアント↔サーバ (双方向) |
| 何を確認? | クライアントがサーバの身元を確認 | クライアントとサーバがお互いの身元を確認 |
| 必要な証明書 | サーバ証明書 | サーバ証明書+クライアント証明書 |
| 主な目的 | 通信の暗号化とサーバのなりすまし防止 | 通信の暗号化、サーバのなりすまし防止、クライアントのなりすまし防止 |
私たちが普段ブラウザでウェブサイトを閲覧する際に使われているのは、ほとんどがSSL/TLSです。これにより、「アクセス先のウェブサイトが本物であること」が保証され、通信内容が暗号化されるため、安全にインターネットを利用できます。
mTLSはそれに加え、サーバ側が「このアクセスは、本当に許可されたクライアントからのものか?」を厳格に検証します。これにより、不正なプログラムやなりすましたクライアントからのアクセスを根本的にブロックすることが可能になります。
SSL/TLSによる通信のイメージ
mTLSによる通信のイメージ
このように、クライアントがサーバを確認するだけでなく、サーバもクライアントを確認する「相互認証(Mutual Authentication)」を行うのがmTLSの最大の特徴です。
mTLSを使用する場面は?
mTLSは、通常のTLSよりも厳格な認証を行うため、特に高いセキュリティが求められる場面で活用されています。具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
BtoB向けWebアプリケーションの認証強化
企業間で利用されるWebアプリケーションにおいても、mTLSは高いセキュリティを担保する手段として有効です。 例えば、顧客企業やそのユーザごとにクライアント証明書を発行し、証明書を保持するユーザやデバイスのみがアプリケーションへアクセスできるようにすることで、不正アクセスやなりすましを防止できます。 特に金融、医療、法務といった高い機密性が求められる業界のBtoBアプリケーションでは、mTLSによる二方向の認証が強力なセキュリティレイヤーとして機能します。
ゼロトラストセキュリティの実現
「社内ネットワークだから安全」という考え方をせず、すべてのアクセスを信頼せずに検証する「ゼロトラスト」というセキュリティモデルにおいても、mTLSは役割を果たします。 例えば、特定の社員が持つPCやスマートフォンにクライアント証明書をインストールし、そのデバイスからでなければ重要な社内システムにアクセスできない、といった仕組みを構築できます。
IoTデバイスの認証
工場やインフラに設置された数々のIoTデバイスがサーバにデータを送信する際、mTLSは非常に重要です。 mTLSを導入することで、サーバは「正規に登録されたデバイス」からのデータのみを受け取れるようになります。これにより、偽のデバイスによる不正なデータ送信やサイバー攻撃を防ぐことができます。
API通信のセキュリティ強化
マイクロサービスアーキテクチャのように、多数のサービス(サーバ)が互いに連携して動作するシステムでは、サービス間の通信を保護することが不可欠です。mTLSを使えば、「許可されたサービス同士」でしか通信できないように制限できます。 また、特定のパートナー企業にのみAPIアクセスを許可するようなBtoBのシステムでも有効です。
まとめ
今回は、mTLS(相互TLS)について解説しました。クライアントとサーバが互いに認証し合うことで、従来のSSL/TLSよりも高いセキュリティを実現します。そのため、API通信やIoT、ゼロトラストなど、高いセキュリティが求められる場面で活用されるケースが多い認証方式になります。その他の場合でも、「許可された特定の相手とだけ、安全に通信したい」という要件のあるシステムがあれば、システムへのアクセス元をデバイスレベルで厳格に制限できるため、mTLSは非常に有効な選択肢となる可能性が高いです。
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