2019年10月より、日本では軽減税率制度が開始されます。さらに4年後の2023年10月からは、複数の税率に対応した仕入税額控除の方式として、「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」が導入され、これによって課税事業者は事業者登録番号や税率を記載したインボイスの発行が求められることになります。EUでは既に2019年4月以降、全EU加盟国の行政機関で欧州標準に沿った電子インボイスを受領し、処理することが要求されています。
本ブログでは、EU電子インボイスをもとに日本のインボイス制度をどう見据えていくべきかを解説します。
EU電子インボイスとは
EUでは、1993年に域内における租税国境が廃止されており、加盟国間で税関における規制のない物品の通過が可能になったものの、国境を越えてインボイスが発行される際に、各加盟国におけるインボイスに関するルールの違いが大きな障害となっていました。
2001年のインボイス指令(EC指令2001/115)によって加盟国間のルール統一を目指したものの、その溝が埋まることはありませんでした。電子インボイスの発行についても初めて言及されましたが、「受領者の同意」を条件としており、また電子インボイスの「起源の真正性と内容の完全性が保証されている場合に限り、加盟各国で受け入れられるべき」とされていました。その後、VAT指令(EU指令2006/112)にもインボイス指令が組み込まれることになり、これをベースに現在まで改正がおこなわれています。
あらゆるインボイスを電子フォーマットに
2010年に改正されたVAT指令(EU指令2010/45)により、電子インボイスは紙のインボイスと全く同じ効力を得ることになりました。受領者の事前の同意を必要とせずに、電子インボイスの発行が可能になったことで、あらゆるインボイスを電子フォーマットに置き換えることがEUで可能になりました。これにより、2017年にはEU電子インボイスは推定5.4億ユーロ以上のコストが年間で削減されたと報告されています。この新たな指令によって、更なる電子インボイスの採用と効率化による企業の競争力向上が見込まれています。
電子インボイスを保証する3つの方法
電子インボイスについては、「起源の真正性と内容の完全性」が保証されていることが求められていますが、その方法として以下の3点があります。
1.BCAT(業務管理に基づく信頼できる監査証跡)
これは紙の請求書による正当性の保証と同じ手法になります。すなわち、電子インボイスの発行に係る記録(契約書、発注書、商品の発送記録、受領書、金融機関の明細書等)を証拠として必要な期間、セキュアに保管することです。
2.電子署名
2010年の改正VAT指令では、適格電子署名のみが電子インボイスの起源の真正性と内容の完全性を保証する有効な方法として言及されています。2016年にeIDAS規則が施行され、電子署名と同じ技術でありながら、署名が個人ではなく法人が「データの起源と完全性」を保証するための仕組みとして新たに「eシール」も定義されました。
3.EDI
EDIについても有効な手法として挙げられているものの、どのようなEDIの実装が起源の真正性とデータの完全性を保証することが可能かについては不明瞭です。
eシールの電子インボイス
eシールは電子署名と違い、署名者の意志を示すものではありませんが、処理毎に人によるPIN入力を必ずしも必要としません。企業内の複数ユーザが管理可能で、業務システムへの組み込みが容易なため、例えば、会計システムと連携した電子インボイス発行の自動化等がeシールによって実現可能です。また、実装についてもオンプレミス型、クラウド型の形態がありますが、クラウド型のeシールサービスであれば、各企業内における開発/実装/管理コストを大きく削減しつつ、法的に有効な電子インボイスの発行が可能なため、UXと信頼性を両立できます。
今後の予想
EUでは行政機関が積極的に電子インボイスを受け入れることで、民間企業における電子インボイスの採用と、デジタル化による効率化、競争力強化を目指していると思われます。いくつかのEU加盟国においては、公共調達(toG)に関しては電子インボイスの採用(EU指令2014/55)が必須になっており、イタリアでは、公共調達に係わらずBtoBにおいても電子インボイスの発行が義務付けられています。
標準フォーマットの電子インボイスが普及することで、税務当局、企業内のコストを大きく削減しかつ正確な課税や会計処理が可能になります。欧州に限らず今後、管理コストの大きい大企業や行政機関から電子インボイスの採用が要求されるなど、ますます電子インボイスがスタンダードになっていくことが予想されます。