昨今、これまで紙で契約書を作成して保管してきた企業が、契約書をデジタル化して「電子契約」に置き換えるという動きが広がってきました。とはいえ、これまで紙の契約書に慣れ親しんできた方は、「電子契約といっても、本当に大丈夫なのか?」と不安に思われるのではないでしょうか。本ブログでは、電子契約についてよくある疑問を改めてご紹介したいと思います。

電子契約は法的に問題ないのか

まず、「電子契約」に入る前に、「企業間の契約」について復習しましょう。企業間の契約とは、「自社と他社との約束事で、念のため約束を破った場合の取り決めも一緒にしておく」のが一般的です。

契約は、口頭の契約、いわゆる口約束でも成立します。しかし、「言った、言わない」を避けるために、約束事を明文化して、相互が合意したことを記録しておく必要があります。かつては、約束事を明文化して、相互が合意した証拠を記録しておく方法は紙しかなかったため、紙の書面である「契約書」が用いられました。サインや押印の文化も、「明文化された内容に合意した人が、本当にその人か」を明らかにするためのものでした。

しかし、インターネットの登場により、紙を用いなくても「約束事を明文化」し、「契約当事者が合意したことを記録する」ことが可能となりました。日本では、2001年に電子署名法が成立し、電子証明書を利用した電子署名を用いた場合は、押印やサインと同じ効力を持つとされました。法的には既に十数年前から対応が完了していたにもかかわらず、電子署名の普及は遅れていたのです。

日本ではなぜ電子契約が一般的でないのか

世界で最初の電子署名に関する法律が整備されたのは、アメリカとアイルランドで1998年のことです。日本で電子署名に関する法律ができたのは、3年後の2001年であることを考えると、法律整備の面において日本は著しく後れを取っているわけではありません。

2000年代前半には、アメリカを中心に電子署名・電子契約サービスを提供する企業が多く設立されています。現在、欧米企業の企業間契約の多くは、こうした電子契約サービス上で行われています。

では、なぜ日本では電子契約が遅れているのかというと、「押印文化」であったことが大きな理由です。契約とは、紙の契約書に押印するのが当然で、押印のない契約書という概念が浸透するのに時間がかかったといってもよいでしょう。電子契約といっても、相手のある話です。自社で「契約を紙ではなく電子契約にしたい」といっても、相手企業が難色を示せば、従来通りの紙の契約書で進めざるを得なかったのです。

こうした動きが急速に変わってきたのがここ数年です。IT大手企業やベンチャー企業が、電子契約書サービスを提供し、特に日系の大手企業がこのサービス上での契約書のやり取りを受け入れるようになってきたためです。

電子契約のメリット

日本の大手企業は電子契約を受け入れるようになってきた理由には、契約を紙から電子にすることによる膨大なメリットがあるためです。

1.コスト削減

企業が電子契約を採用する最大の理由は、コスト削減です。

大手企業は紙ベースの契約書の管理に年間億単位の費用を支払っていますが、電子契約にすると、かかるコストは以下の通り圧縮できます。

  • 印紙代 → 不要
  • 契約書を保管する書庫の費用→ 不要
  • 契約書の用紙代(コピー用紙)→ 不要
  • 契約書を印刷するインク代・製本テープ代→ 不要
  • 署名者の人件費 → 電子だと時間短縮できるため大幅に圧縮
  • 契約書をスキャンする人件費 → 不要
  • 契約書を郵送する費用→ 不要

契約書を紙から電子に移行した後に、目に見えて削減できるのは「契約書の保管費用」です。契約書を紙で作成した場合、契約書をスキャンしても紙の原本を保管する必要があります。しかし、オフィス内で大量の紙を保管しようとすると非常に場所を取り、書類棚をいくつも占有することになります。電子契約を導入しペーパーレスを実現すると、電子契約に移行した以降の契約書は一切保管費用がかからないのは大きなメリットになります。

2. 契約処理の迅速化

紙から電子に移行すると、紙の契約書を郵送、もしくは回覧する必要がなくなるため、契約手続きが迅速になります。

紙の契約書の場合

  1. 契約書の作成
    契約書を2部印刷し、製本します。途中もし何かしらのミスがあれば製本し直しです。
  2. 契約書の押印・印紙の貼付
    契約書を社内の押印者に送ります。所在地や都合によっては少なくとも数日~数週間かかる場合もあります。
  3. 契約相手方に契約書を郵送
    押印が済んだ契約書2通を封筒に入れ、相手先に郵送します。
  4. 契約書が返送・受け取り→契約完了
    契約相手先でも、同様のフローを経て2部に押印をして、1部保管、1部返送します。契約の文面が完成してから、契約完了までにどれだけかかったのでしょうか。早くても数日、遅いと数週間かかる場合も少なくないでしょう。

電子の契約書の場合

  1. 契約書の作成(登録)
    クラウドの電子契約サービスに契約書ファイルをアップロードします。ファイルを登録するのにかかる時間は数秒から数十秒で完了します。
  2. 契約書の押印・印紙の貼付
    メールで契約担当者に連絡します。インターネット環境があれば作業できるので、担当者の所在地や都合に影響されにくくなります。押印も印紙の貼付も不要です。
  3. 契約相手方に契約書を送付
    メールでの送付なので、数十秒で完了します。
  4. 相手方が電子署名→契約完了
    相手方が電子署名を完了すると、即座にメールで通知があります。書類のやりとりも不要のため、契約処理全体にかかる時間を少なくとも数日は短縮できます。場合によっては数週間短縮できることもあるでしょう。

3. 検索性の強化

紙の契約書であっても、契約書をスキャンして保存する際にOCR※で読むことで、印字された文字をテキストにある程度は変換できます。しかし、OCRは万能ではなく、誤って文字を認識してしまうことも少なくありません。OCRに間違いがあった場合、そのままにしておくと正しい検索が行われなくなりますが、手作業で修正しようとすると膨大な労力がかかります。

なお、中小企業になるとそもそもスキャン、OCRを利用せずに、紙の契約書をそのまま保管している例も多いようです。そうなると、過去の契約書を確認したいときに契約書が保管されているファイル棚を一つ一つ調べていくという気の遠くなる工数がかかります。また紛失や災害などによる消失のリスクもあります。

ここで、電子契約サービスを利用すると、作成したテキストの文字がそのままサービス上に保存されますので、文字が間違って登録されることはありません。もちろん、手作業で修正する工数もかかりません。スキャンもOCRも、紙の原本を探す努力も不要となります。

※OCR(Optical Character Recognition/Reader、光学文字認識)…活字文書の画像を読み取り、コンピュータが読み取れるデジタルの文字コードの列に変換するソフトウェア

電子契約は組織によっては課題も

電子契約は、専用のサービスの選定・導入が必要になりますので、それまでに企業によっては時間がかかる場合も考えられ、また契約を交わす相手先も同様にサービスを利用できる必要性があります。紙での文書管理から、まずは自社だけでも電子データでの文書管理にしたい場合、PDFやMS Officeの各文書への「電子署名」というものを付けることもできます。

電子署名は「誰がいつ作成、承認したのか」の痕跡を残しデータを処理することが可能で、紙文書における「印鑑+印鑑証明書」に代わりとなります。改ざんがあった場合は検知されるため、原本性を確保することもできます。

中長期的に考えれば今後は電子契約が主流になる可能性もあります。組織の運用体制なども伴うことから余裕をもった検討が必要です。

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