日本ではまだ紙の記録が当たり前であった20世紀の段階で、米国では電子記録・電子署名に関する規則である連邦規則第21条第11章(21 CFR PART 11、以下Part 11)が制定されています。Part 11は制定後、約四半世紀が経過していますが、今一度、その内容と対応方法について、医薬品、医療機器の観点から整理してみたいと思います。

Part 11(パートイレブン)の概要

Part 11はアメリカで50巻ある連邦規則集(CFR)の第21巻(Food and Drugs)の第1章(Food and Drug Administration, Department of Health and Human Services)、サブチャプターA(General)のPart 11(Electronic Records; Electronic Signatures)を指し、電子記録・電子署名に関する規則です。このPart 11の要求項目を満たす電子署名と電子記録は手書きサインやイニシャルと同等のものとみなされ、「Part 11」と言うと、その要求内容および対応を示すことが一般的です。

Part 11が制定された背景は、医薬品業界からです。1990年代は、MicrosoftのWindowsを機に、製造、開発におけるコンピュータによる自動化が進み、開発文書や製造文書の電子化が進みました。しかしながら、せっかくの電子文書も当時は電子署名が認められていなかったので、わざわざ紙に印刷して署名を行うことが求められていました。そこで製薬業界の希望に基づき、FDAと製薬業界が協同して上記の状況を改善してペーパーレス化を図るよう、電子記録・電子署名の規制が1997年3月20日に制定されました。もともとは製薬業界の状況に合わせて制定されたPart 11ですが、その対象となる製品群は連邦食品・医薬品・化粧品法(FD&C Act)で規制されるもので、医薬品、医療機器、化粧品、食品等広範囲に渡ります。

電子記録・電子署名に求められる要件

電子記録・電子署名の作成および保管は簡単で便利である反面、問題点としては、修正後に以前の内容の判別ができないことや、改ざんがしやすく他人による『なりすまし』ができること等が挙げられます。 Part 11は一般、電子記録および電子署名の3つのSubpartで構成され、以下に示す電子記録・電子署名の要求を規定しており、メーカーは各項目の対応が必要とされています。

電子記録

① CSV(コンピュータシステムバリデーション)
② 電子記録が正確で完全なコピーの作成能力
③ 電子記録の保護機能
④ セキュリティ(物理的または論理的アクセス管理)
⑤ 監査証跡(記録を作成・変更した際の識別性)
⑥ コンピュータシステムに関する教育計画・実施

電子署名

① 電子署名は、一人ひとり独自のものを使用
② 電子署名は使用前に本人確認を行い、他人への再割り当て不可
③ 生体認証を使用する場合、所有者以外は使用できない方法を採用
④ 生体認証を使用しない場合は、ID+パスワード等の2種類の識別要素(二要素認証)を用意

Part 11の対応にはPart 11の条文を正しく理解し、必要な性能を備えたシステムやソフトウェアを導入することが大切となります。

Part 11に準拠しなかった場合のリスク

Part 11は製薬・医療機器・化粧品・食品業界のGxP(下表参照)と言われる、開発、非臨床研究、臨床研究、製造・維持、物流等のプロダクトライフサイクル全般のプロセスに適用されます。医療機器で言うとQMS(品質マネジメントシステム)全般に適用され、特にCSV(コンピューシステムバリデーション)や文書管理のデータインテグリティを中心として、FDA査察の際にその適合性について確認されます。 査察中に不適合が確認されるとForm483と言われる注意文書、Warning Letter(警告状)が出され、メーカーに改善を要求してきます。FDAに改善が適切ではないとみなされた場合は、製品を米国市場から回収、米国への輸入禁止、高額な罰金の支払い等のペナルティがあり、最悪の場合は企業/個人が起訴されることもあり、その代償は小さくありません。
またWarning Letterの内容はFDAのホームページ上に公開され、メーカーの株価や収益の減少につながる可能性もあります。

GxP 内容
GLP 非臨床研究
GCP 臨床研究
GMP 製造管理
GDP 流通管理
GPSP 市販後管理

まとめ

Part 11の条文は抽象的ではありますが、対応にあたってはPart 11の条文を正しく理解し、必要な性能を備えたシステムやソフトウェアを導入することが大切であると言えます。

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この記事を書きました

肘井 一也

肘井 一也
所属:mk DUO合同会社 CEO